オーバーランセンサとは、機械装置の動く部分が所定の範囲を超えた場合、強制的に停止させるためのセンサのことです。
例えば、エレベーターではファイナルリミットスイッチなどと呼ばれていて、これを設置することを建築基準法で定められています。
もし最下階や最上階で停止用のセンサが故障してしまっても、このリミットスイッチによってエレベータを安全に停止させるというものです。
今回は、オーバーランセンサについて、機械設計的な考えとどんなセンサを使えばよいのかについてご紹介したいと思います。
この記事は、機械設計初心者から中堅の方を対象とした内容にしています。
センサの種類
一般的によく使われているセンサが、オーバーランセンサとしても使われています。
代表的なセンサとして、
・リミットスイッチ
・近接センサ
・光電センサ
の3点です。
他にもいろいろありますが、この3点を押さえていればよいでしょう。
それぞれ長所、短所、性能上の違いがありますが、大きな違いは、
接触式:リミットスイッチ
非接触式:近接センサ、光電センサ
になります。
では、この中から何を選べばよいのでしょうか。
コストとか性能、取り付けスペースとかの物理的制約で選定してよいのでしょうか。
オーバーランした場合の影響
機械装置が所定の範囲を超えて動いてしまった場合。
通常ではありえない状態ですが、機械に故障はつきものですので、そのような場合も想定して機械を設計する必要があります。
そして、オーバーランした場合、どんな影響があるのかによってセンサを選ぶ必要があります。
クレーンゲームの場合
クレーンが思った位置で止まらずに行き過ぎてしまった場合です。
お客様からのクレームになりますが、他の台に変更してもらって何ゲームかサービスしてあげれば大きな問題にはならないでしょう。
この場合のオーバーランセンサは、特にこれじゃなきゃだめというのはありません。
コストや取り付けスペースなどの制約で選定すればよいです。
ひょっとするとなくてもいいかもしれません。
エレベーターの場合
最初にご紹介した通り、建築基準法で定めらているのでリミットスイッチでなければいけません。
エレベーターの完成検査や定期検査において、このリミットスイッチが適切な位置に設置されていることと、動作に問題がないことを検査します。
一般的な搬送コンベヤや昇降装置の場合
クレーンゲームのような軽微な機械装置の場合。
その場合はオーバーランセンサはどのようなものでも構いません。
特に指定されたものを使わなければいけないという決まりはありません。
しかし、大掛かりな機械設備等で、所定の位置で停止しなかったことで大きな事故につながる場合。
その事故によって大きな損害や周辺地域へ悪影響がある場合は、リミットスイッチが適切です。
特に規格や法律等で必ずリミットスイッチでなければいけないと、定められていませんがリミットスイッチがよいでしょう。
リミットスイッチが適切である理由
それは、接触式と非接触式の性能の違いによるものと言えます。
接触式のリミットスイッチは、その方式が示す通り物理的に対象物を検知します。
対して非接触式のセンサは、磁界とか電磁誘導といった電気的な現象を利用して対象物を検知します。
電気的な現象を利用しているため、ノイズなどの影響を受けて誤動作することがあります。
こういった誤動作は、接触式のリミットスイッチにはありません。
よってリミットスイッチの方が信頼性が高いため、適切であると言えるのです。
オーバーランセンサの回路
オーバーランセンサの回路は、NC:ノーマルクローズという方式を採用します。
これは、通常回路が閉している。
つまり常に通電しているという状態です。
センサが検知すると、回路が開いて電流が遮断されます。
このNC方式を採用する理由は、ケーブルが断線した場合でも、センサが検知したことと同様に扱って機械を停止させるためです。
機械を停止させることは安全側に対処することになるので、こういった考え方をフェールセーフといいます。
規格基準
参考として、JIS B 9703 機械類の安全性−非常停止機能−設計原則 では、
非常停止ボタンは,機械的に直接回路を開けなければならない というようなことが示されています。
つまり、電気制御の観点では、非常停止ボタンには電気的な現象を利用したものではなく、機械的に直接的に回路を開けるリミットスイッチのようなものを使うようにと示されています。
じゃあ機械設備の非常停止センサであるオーバーランセンサも、同様に機械的に直接的なリミットスイッチを使うべきだという考えになります。
ただし、ここでなんでもかんでもオーバーランセンサであれはリミットスイッチじゃないといけない、とは言えないのです。
近接センサなどと比較するとリミットスイッチはサイズが大きいため、装置を小型化するのに不利になります。
なので、重要度や影響を考慮して柔軟に対応する必要があります。
まとめ
代表的なセンサの3種類をご紹介しました。
リミットスイッチ、近接センサ、光電センサです。
エレベーターのように、オーバーランセンサはリミットスイッチを使用すると法律で定められているものがありますが、ほとんどの機械設備では定められていません。
しかし、JISでは制御機器の非常停止ボタンは、リミットスイッチのような機構でなければいけないと示されています。
では、機械設備を設計する技術者はどのように考えればよいのでしょうか。
それは、機械設備がオーバーランした時にどんな事故に発展するのか、人命にかかわるのか、テヘペロで済むのかによって判断が変わってきます。
このように、その状況に応じた判断をしなければいけない所が、機械設計技術者の難しいところであり、知識、経験および技術力を示すところと言えます。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。