睡眠薬混入と技術者倫理

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今回もまた、爪水虫薬に睡眠剤が混入した事件について、

技術者倫理の観点から書いてみたいと思います。

まず初めに僭越ではございますが、この事件で被害にあわれた

方々に対して、こころよりお悔やみとお見舞いを申し上げます。

そして、一日も早く回復されますことをお祈りいたします。

間違いや不正に直面した時、技術者として

どのように対応すればよいのか、同じような事件を起こさない

ためにどうすればよいと、みなさんはお考えでしょうか。

そんな技術者の倫理観について、自分の考えに自信がなかったり、

悩んでいる方がおられたら、この記事を参考にしていただければと思います。

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事件の推移

福井県あわら市の製薬メーカーが、爪水虫薬に睡眠剤を

混入させてしまったという事件です。

服用した患者さんが亡くなられるという重大な事件です。

また、服用された方の中には交通事故を起こしたり、

健康被害を受けた方がいると報告されています。

事件を起こした製薬メーカーが当初発表した内容では、

異物が混入した原因は作業ミスや作業手順違反によるものだが、

検査でそれを見つけることができなかったことも

原因であるというものでした。

しかし、数日経過した段階で、検査で異物が混入

していたかもしれないという疑いを把握していて、

そのことを作業員が上司に報告していたことが

明らかにされました。

詳細はこちらを参照ください。

じゃあ改めて何が悪かったのでしょうか。

誰に責任があるのでしょうか。

立場と状況と責任

製薬メーカー側の人の立場と状況について整理し、

そこから各立場のそれぞれの責任について考えてみます。

会社組織としてはいろんな立場、状況があります。

作業員、検査員、技術、営業、品質保証や経営者などの立場。

そして、状況によって各立場にかかってくる重圧があります。

信用を無くす恐れがあったり、責任を問われたり、

品質が守られない、納期が間に合わない、売り上げが上がらない、

利益が出ないなどの状況になった時、要するに危機的な状況の

時に感じる重圧です。

ここで最も大きな権限を持ち、全責任を負っている立場は経営者

ですよね。どんな状況になっても責任は同じでしょう。

次に責任が大きいのは品質保証があって、営業、技術と各管理者

は横並びで各立場の責任を負うというのが通常だと思います。

しかし、危機的な状況になった時、立場は違っていても分担している範囲

を超えて協力し合い、知恵を出し合って危機を乗り越えようとします。

全員がそれぞれの立場で、まじめに全力で取り組むことが

責任を果たすということなんだと思います。

どんな重圧があっても、隠してはいけません。

責任から逃れてはいけません。

観点と判断

いろんな立場の人たちには、それぞれの観点があって、

その観点に基づいた判断があります。

それについて考えてみます。

全て順調である時は、会社組織は自己の利益だけを追求

するだけではだめで、社会に貢献することも会社組織

の存続に不可欠だと考えます。

そして、その観点から社会と会社組織がともに発展できる

ように考え判断します。

しかし、ここで立場と状況によって観点と判断が

変化することがあります。

さらに、ここに会社組織の存続の危機が重なった時、

判断の方向は存続に固執したものになります。

自然な方向です。

この事件の責任者

この事件の責任者について考えてみます。

会社組織の存続を最優先に考える人がこの事件の責任者でしょうか。

存続を第一に考えることは悪いことではありません。

当たり前のことです。

しかし、存続させるために他をだましたり、

価値あるものを台無しにすることは悪いことです。

今回の場合、だまされる側の代表は患者さんです。

価値あるものとは、会社や製品、業界の信頼性のために真面目に

取り組んできた人達の努力です。

よって、この事件の責任者は、他をだましたり、

価値あるものを台無しにすることを問題ないと判断した人、

およびその判断にかかわった人、判断材料を提供した人、

その判断を受け入れた人も全員に責任があると言えます。

そのような人や組織は突然現れるものではありません。

少しづつ長い時間をかけて大きくなっていきます。

最初はちょっとした失敗があり、後でそのことが発覚したが、

問題が起こることなく終わってしまったり、限定的な謝罪や

補償で公表されることがなければ、だんだんと問題意識が低下していきます。

そうすると、次に起こる問題に対しても許容できるかどうかについて

人や組織は考えるようになります。

同じような前例では、問題にならなかったから。

問題が起こっても、全体の割合からすると少数で、

損失以上に利益が出ていたから。

今回も対処しなくても大きな問題にはならないだろう。

このような状態を引き継いで成長させていった

歴代の人達にも責任があります。

また、自浄機能が働かない会社組織にも原因があります。

つまり、このようになってしまったら人も組織も全部だめ

ということです。

技術者の観点と判断

技術者が問題の状況について最も正確な情報を持っている立場です。

よって、問題の重要度について正確な判断をできるのも技術者です。

異物混入がわかった時点で、何をすべきかわかっているはずです。

患者さんの安全、安心を最優先にして、その観点から判断するのが

技術者です。

出荷してしまった後で判明したのなら製品回収です。

というのが当たり前の判断になります。

では、なぜそのようにならなかったのでしょうか。

技術者としての倫理観を見失ってしまったのでしょうか。

それとも、抗えない強い力に従ってしまったのでしょうか。

技術者の責任

爪水虫薬に異物が混入したという情報から、どのような影響が

あるか推察できるのは当事者であり技術者です。

異物の可能性があった段階で、詳細な検討調査が必要なこと。

このまま出荷すれば服用した患者さんに健康被害がでる。

人の命が失われるかもしれない。

製品回収の必要性。

大損失。

会社倒産。

というふうに考えてしまうでしょう。

今回の異物混入によって、人命にかかわるリスクについて

技術者は承知していたと思います。

承知できていなければ、残念ながら技術者失格です。

薬物全体の専門知識がなくても、自分が扱っている限られた

範囲の知識はあって当然だと思います。

じゃないと自分の安全すら守れないことになるからです。

異物混入の可能性がわかった時、人命にかかわるリスクが

あることを知った時、技術者は対処すべきことを組織に

進言したことでしょう。

しかし、組織は対処しなかったのでしょうか。

技術者はそれを知りながら放置したのでしょうか。

そうであれば技術者も同罪です。

なぜならば技術者は組織が対処するまで、何度もねばり

強く働きかけるべきだからです。

人を殺してしまうかもしれない薬を造ったことを知って

いるからです。

病気を治すために造った薬だったのに、人を殺してしまう薬

になってしまいましたって言われて、

対処しない組織や人は存在する価値はないでしょう。

技術者が何度も説得したにもかかわらず対処しないままの状態で、

改善する見込みもない場合は、その時は技術者が

公表するしかありません。

公表なんて難しいことだと思いますが、それが技術者の

倫理に基づいた責任だと考えましょう。

もちろん公表して終わりではありません。

そこから本当の責任を果たす作業になります。

技術者として事態を収拾することです。

事件の真相を明らかにし、真の原因を究明し、

再発防止策を定め、それを継続して改善できる

ように社員教育と組織を作ること。

そして、その運営が軌道にのるところまで確認

できれば、責任を果たせたと言えると思います。

そんなとこまで技術者がしないといけないのって

思われますか。

そこまで考えるのが、モノづくりに携わる人、

技術者の仕事だと考えましょう。

例えば、ねじたった1本を締め忘れたらどうなるか。

それが車のタイヤを固定するねじだったら、

飛行機のドアを固定するねじだったら、

または、ジェットコースターの安全バーを固定するねじだったら。

まとめ

爪水虫薬に睡眠剤が混入した事件を通して、技術者倫理について

考えてみました。

人や組織には立場があり、状況によって判断が変化します。

本来の人や組織の判断は、組織の存続と社会貢献に基づいていて

社会倫理に適うものでした。

しかし、改善する取り組みがなければ判断は少しづつ悪い方向に

変化していきます。

それを最前線で改善できるのが、改善する役目を負っているのが

技術者です。

つまり、技術者に倫理観がなければ、人や組織は判断を誤り、

ダメになってしまいます。

どんな完璧なルールを作っても、それを遵守する倫理観が

なければ意味がありません。

そのことを自覚して、技術者倫理をおろそかにすることが

ないようにこころがける必要があります。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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