今回は、図面において特に指示をしない製缶製作や組立に関わる寸法公差について書いてみたいと思います。
機械設計者のみなさんは、図面に寸法を記載する時にいろんな公差を指示していることと思います。
または、公差を指示しない寸法もあります。
というか、公差を指示しない寸法の方がほとんどだと思います。
公差には、ベアリングやオイルシールなどの穴と軸のはめあい公差があります。
また、Oリングやキーなどの溝に関する公差など、さまざまな種類の公差があります。
しかし、これらの市販品はメーカーやJIS規格において、用途やサイズに応じた公差が示されています。
つまり、どの公差を選べばよいかの考え方、要領が示されているので、それに従えばよいのです。
では、メーカーやJIS規格で指示されない部分の公差についてはどうするのか。
それは設計者が決めなければなりません。
というわけで、設計者が独自で決めなければならない公差について、1つの考え方をご紹介したいと思います。
この記事は、機械設計初心者や中堅設計者の方にご参考にしていただければと思います。
ここで言う公差とは、長さに限定しています。
よって、幾何公差には当てはまりません。
それではどうぞ。
製缶公差
製缶とは、簡単におおざっぱに言うと、主に手作業で加工することを言います。
もう少し詳しく書くと、鉄やステンレス鋼材を、いろんな技術を駆使して加工し、タンクや鉄骨構造物などを成形することを言います。
環境設備や貯槽、プラント、産業機械など、幅広い分野で必要とされます。
溶接技術、機械加工、機械製図などの知識・経験・資格のほか、品質管理やクレーン作業の技術も必要となります。
製缶について、詳しくはこちらを参照してみてください。
この製缶に関する公差ですが、JIS規格には定められていません。
ちなみに、鍛造や鋳造はJIS規格で寸法公差を定めています。
鋳造は、JIS B 0403
鍛造は、JIS B 0415 と JIS B 0416
があります。
さて、製缶に関する公差ですが、結論から言うと、JIS B 0401-1 を適用する考え方がよいでしょう。
JIS B 0401-1 で示されている表に「表1-3150mmまでの図示サイズに対する基本サイズ公差等級の数値」があります。
この表は、0~3mm以下、3mm超~6mm以下など長さの範囲が細かく区分されていて、それぞれの区分ごとに公差を示した資料です。
そして、その公差範囲が小さいものから大きいものへと等級を付けて示されています。
この表は長さだけに言及していて、特定の部品や製品に限定していません。
よって、長さのあるものに対してなんでも適用できると言えます。
というわけで、この表から適切な等級の公差を製缶公差として適用すればよいでしょう。
ちなみに、現実的には最大の等級であるIT18が妥当なところだと思います。
製缶による製作物などは、溶接ひずみや素材そのものの公差があるため、製品の機能・性能に影響がない寸法には、これぐらいの余裕を持たせないと不合格品が多くなってしまうでしょう。
この公差には許容差が示されていませんので、プラス側、マイナス側、または中間振り分けにするのかなど、適切に許容差を設定する必要があるのでご注意ください。
機械加工公差
機械加工公差とは、旋盤、フライスやマシニングセンタなどの工作機械によって加工された部位に適用される寸法公差のことです。
工作機械について、詳しくはこちらを参照してみてください。
工作機械による寸法精度は、製缶による寸法精度よりも明らかに高いです。
そりゃあ当然です。
工作機械の性能によっては、数ミクロンの精度で加工することが可能です。
というわけで、工作機械の寸法交差には、JIS B 0405 が適用できると考えます。
JIS B 0405の「表1 面取り部分を除く長さに対する許容差」に示される公差等級の粗級が適当でしょう。
一般的な工作機械では、中級程度の能力は十分あると考えますが、こちらも製品の機能・性能に影響がない寸法は余裕を持たせる方がよいでしょう。
組立寸法公差
ここでの組立寸法公差とは、部品を組み立てた際、部品個々の寸法を足し合わせた寸法に適用する公差のことを言います。
例えば、全く同じ大きさの2個のブロックを積み上げたとして、高さはブロックの2個分:足し合わせた寸法になり、これが組立寸法になります。
対して、横幅や奥行はブロック単体の寸法と同じなので、これは組立寸法とは言いません。
そして本題です。
機械加工品どうしの場合、組立寸法公差はどのようにすればよいでしょうか。
または、製缶品どうしや製缶品と機械加工品の組み合わせの場合はどうするのがよいのか。
単純に製缶品の公差と機械加工品の公差を部品点数だけ足し合わせていけばよい、というわけにはいきません。
そんなことをすると公差がどんどん大きくなって、製品の機能・性能に影響してしまうからです。
というわけで、結局は以降に示す考え方がよいでしょう。
部品点数が多くなったとしても、製缶品1個分の製缶公差です。
では、部品点数が多い場合、寸法のばらつきが累積して公差を超えてしまうことがあるでしょう。
そうならないように設計で配慮すればよいのです。
その方法とは、ボルトで組み立てるのであれば、キリ穴を長穴にしたり、シムやライナーなどの調整部品を設けることです。
または、適当な部品数個を現合にする方法もあります。
他の部品の寸法のばらつきを、現合部品に全て吸収させます。
そうすると、精度を出したい部位の組立寸法を満足させることができるでしょう。
まとめ
製缶公差、機械加工公差、組立寸法公差について、一つの考え方をご紹介しました。
特にこれらは、公差を示していない寸法に適用できる考え方です。
寸法に公差を記載していなければ、現場で仕上がった寸法に対して誰も良否を判定することができません。
その都度、設計担当者にお伺いするしかありません。
これでは設計の仕事がどんどん増えるばかりで効率が悪いです。
そうならないために、公差を示していない寸法に対して許容差を明確にしておく必要があります。
適切な公差、許容差を設定してすばらしい製品を設計しましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。